【映画】『わすれな草』

April 21, 2017
【映画】『わすれな草』

(C)Lichtblick Media GmbH 2012

アルツハイマーを患った妻と、彼女を自宅介護する夫の姿を、息子である映画監督が1年半にわたって撮影したドキュメンタリー映画『わすれな草』(ドイツ/2013年)。この作品は、当事者が発信する「いのちの輝き」が多くの人に希望を与え、ドイツでは異例の大ヒットになった。来日(4月13日)した夫のマルテ・ジーヴェキングさん(77)に、妻とその介護体験についてインタビューした。


フランクフルト大学教授だったマルテさんは、定年退職後、数学者として研究と旅行に没頭する夢を抱いていたが、2008年に妻のグレーテルさんがアルツハイマー型認知症と診断されたことで断念、介護に専念することになった。


政治活動家だった知的な妻が12年に亡くなるまでの間、マルテさんは献身的に介護したが、かつては自身が浮気を繰り返し、妻を苦しめた過去を持つ。夫婦には離婚の危機さえあった。そんなマルテさんが、自分の生き方を変えたのは、介護中に妻の日記を読んだことだった。


「僕の浮気に悩む妻の苦しみがつづられていた。それは背筋が寒くなるような内容で、正直、胸が苦しくなった。しかし、妻の痛みを知り、自分の間違いに気付いたのです。妻に十分な愛情を伝えていなかった。何もできていなかった。こうした〝悪い〟過去は変えられないけれど、〝自分自身を変える〟ことはできると考えました」


そして専門医の次のような助言にも勇気を得たという。アルツハイマーを発症すると、記憶がなくなり〝別の人〟になってしまうので、家族は過去の記憶に引きずられず、「新しい人間関係を築くためにこの時期を逸しないように」。


マルテさんが、妻の在宅介護を決めたのは、施設よりも、住み込みの介護士に助けてもらって自宅で過ごす方が妻に合っていると考えたから。そしてアルツハイマーを患いながらも、笑顔の妻の輝く瞬間を見逃したくないと思ったのも理由だという。



「究極の生き方」


妻は05年から記憶力が減退し、次第に活動が制限されていった。記憶を失っていく過程で、本人の苦しみを家族が支えた。また家族も思い出を共有できないことに苦しんだが、在宅介護ができた理由は、「妻が素晴らしい人間で、愛すべき人だったから」。この一言に尽きるという。病気になっても、妻から笑顔とユーモアが消えることはなかった。


「部屋に入ってくる僕を見て、『あなたが夫だったら良かったのに』と言う妻。過去の僕への不満と、今、介護している僕が結び付かずに発したユーモアだ。また認知症になって何の不安も感じなくなった妻が、ドライブインで、入れ墨のある怖そうな人にでも明るく声を掛けていた姿、喫茶店で隣の席の人のケーキを食べてしまい、怒られる前に相手の容姿を褒めまくり、あっさり許してもらった姿など。そうした一つ一つの思い出は、その後の僕の生き方や考え方を変えていきました」


妻グレーテルさんがアルツハイマーになって示した、人との関わり方や生き方は、「今この瞬間を大事にする究極の生き方」なのではないか。妻の介護で目覚めたマルテさんの〝自分自身を変える〟作業は、今も続いているという。


東京・渋谷ユーロスペースで上映中。以後、全国順次公開。公式サイトは、(www.gnome15.com/wasurenagusa/)。

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