【著者に聞く】『ナルニアの隣人たち』

June 1, 2017
【著者に聞く】『ナルニアの隣人たち』

『ナルニアの隣人たち』(かんよう出版)

『ナルニアの隣人たち』(かんよう出版)
大学講師・日本聖公会信徒 堀越喜晴(よしはる)さん(59)


イギリスの作家、C・S・ルイス(1898―1963年)が描いたファンタジー『ナルニア国物語』は、現実世界を生きる4人の兄弟姉妹たちが、未知の世界「ナルニア国」に足を踏み入れ、悪と闘う物語。その魅力を伝える『ナルニアの隣人たち』は、『ナルニア国物語』全7巻に登場する人物や動物〝15人〟に焦点を当てながら、原作へと誘う〝案内書〟だ。


「ナルニア国」は、「偉大なる大帝の息子」であるライオンのアスランによって創造された。ところが、魔女によって「白一色の冬の時代」が到来。アスランは、罪人の身代わりになっていけにえとなる。しかし、死んだはずのアスランは復活する。その後、何度も善と悪の闘いが繰り返され、最後に「アスランの国」が到来する。まさに、聖書にそっくりの物語だ。


東京の立教大学や明治大学などで英語や英文学、また障害学等を教える堀越さん(日本聖公会信徒)は、小学6年生の頃、父親に勧められ『ナルニア国物語』を読み始めたが、あまりの面白さに全巻を読破。やがて英語の原文でも読むようになり、約50年間、何十回も読み返してきた。現在、「日本C・S・ルイス協会」会員でもある。


『ナルニア国物語』は、「児童向け聖書」などと言われることがあるが、その点について堀越さんはこう話す。


「ルイスは、聖書を教えるために書いたわけではなく、キリスト教の枠組みの中で、キリスト教の専門用語を使わずに、聖書の世界を楽しみ、聖書の世界を〝遊んだ〟というのが事実に近いと思います。彼自身、『子どもに聖書を教えるためにナルニアを書いた』と言われることを、とても嫌がっていました。しかし、アスランのことは、『イエス・キリストのこと』だと告白しています」



聖書の知識で興味深まる


『ナルニアの隣人たち』はロゴス点字図書館(旧・カトリック点字図書館)発行の点字月刊誌『あけのほし』に2007年から1年以上、毎月連載した原稿を基に執筆したもの。堀越さんが選んだ「ナルニア国」の仲間たち〝15人〟のそれぞれの生き様は、たとえ話に満ちている。


ラテン語の「LUX(光)」に由来する名前を持つ少女ルーシーは、困難な中でも「常に光を見続けた」。ヘブライ語で「真理」を意味するエメースという名の若き兵士は、神の属性である永遠の「真・善・美」を生涯追い求め、ついに彼の思いもよらなかった真の神アスランに出会った。一方、エドマンドは、「ナルニア国」の入口の扉を閉じたことに象徴されるように〝心の扉〟を閉ざし、「ナルニア国」で道に迷ってしまった。


聖書や文学を知っていればいるほど、多層的に楽しめる「ナルニア国」。人間としての生き方の指針があらゆるところに散りばめられている上に、ストーリーも面白く、いくらでも深く読むことができる。聖書と同様に毎回違った味わい方が楽しめる。


著者のルイスは英国国教会の信者で、幼い頃から聖書を読み聞かされ、賛美歌を歌って成+長した。10歳の頃から自ら教会に通い、なじめない学校や寮の生活の中で、寝る前に一人で聖書を読み、祈ることが唯一の安らぎだったという。


しかし、だんだんと「お前は真剣に祈ったのか? お前の祈りは真実か?」などと自問するようになり、祈りそのものが苦痛なものに感じられ、13歳から徐々にキリスト教を離れ〝無神論者〟になっていく。


その後、オクスフォード大学に進学し、同大学のフェローとなる。大学で、『指輪物語』の作者でカトリック信者だったJ・R・R・トールキンと出会い、深く激しい議論を戦わせる中で、ルイスの〝無神論〟に大きな矛盾があることが暴かれる。「絶対者」の存在を認めざるを得なくなったルイスは回心し、教会に戻っていくのだった。


そして堀越さん自身も、ルイスと同様に教会から離れた経験がある。多くの人は、信仰を道徳のように考え、「〇〇をせねばならない」と人間を縛るもののように考えがちだ。しかし実際には、信仰の道は楽しく、その他の道は一見楽に見えるけれど、逆に苦しい道と言えるのではないか。こう考える堀越さんは、『ナルニア国物語』を書いたルイスの思いを想像しながら、次のように代弁する。


「無常の喜びの源である神との出会いは、本当は楽しいものです。ルイスは、ナルニア国で、神ご自身に、そしてキリストに、また悪魔に自由に語らせて、多くの隣人たちを招いて、一緒に悪魔の策略におびえたり、また神との出会いを喜んだり、その息吹に思いっきりひたってほしかったのだと思います。そのために『ナルニア国』をつくったのではないでしょうか」


この『ナルニア国物語』のガイドブックとも呼べる『ナルニアの隣人たち』。堀越さんによれば、この本には〝魔法〟がかかっているため、読んだ人は誰でももう「ナルニアの隣人」になっているのだという。さて、その魔法とは……。

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